この本を読むとTPPとは何なのかということがよく分かる。

 アップルとの対比で、「じゃあ、サムソンはどうなのか?」と考えてみる。

 サムソンやLGなどは、グローバル化に対応しつつも韓国企業であることをやめようとしているようには見えない。 そして、サムソンを擁する韓国はTPPは自国の利益にならないとして早々に米韓FTAという道を選んだ。

 状況から見ると、日本も韓国と同じような状況だと思われるが、結局は政治判断の遅れと政治家のグローバルな経済戦略への無知からズルズルとTPPの泥沼に引きずり込まれてしまっている。

 食品業界のモンサント社の話を読めば、TPPで問題になっている農業問題は日本の農業というギョーカイの問題ではなくて「食」の安全の問題なのだということがよく分かる。
 「農業を守れ!」というスローガンを掲げつつ、結局は自民党と手打ちをしてしまうであろうJA中央などの事を考えてみると、陰謀論的に見れば、経済問題としての農業に集中することで、肝心の「食の安全」から目をそらそうとしているのではないかとさえ思ってしまう。

 加えて、TPP参加を推進する日本の輸出産業は、グローバル化が遅れていると言われるが、案外サムソンが「韓国」にこだわるほどには「日本」にこだわらないということなのかもしれない。


 それから、フォックスコンに関する記述は、現実を踏まえて極めて公平に、冷静に書かれていると思う。

 龍華のフォックスコンでは、寮だけではなく工場棟にも自殺防止ネットが張り巡らされている。あれを見れば確かに異常と思ってしまうが、日本の人口20万〜30万の都市で年間どれだけの自殺者がいるのかを考えると気持ちが暗澹としてくる。飛び降り自殺の少ない日本では都市中のビルにネットを張っても自殺は防げない。

 賃金や厚生施設などを見るとフォックスコンは明らかに平均よりはかなり高いレベルと言える。(本書で書かれているのは控えめな気がする、おそらく社会労働局あたりの役人の話を真に受けている)
 中国のブラック企業は中国資本の方が圧倒的に多いし、炭鉱事故のニュースを見るまでもなく無茶苦茶なブラックが山のようにある。
 確かに台湾系は外資の中では就職先として最低ランクとされているが、それはすでに他の企業であるレベル以上の管理スタッフになっている人々にとっての話であり、末端のワーカーにとっては給料がまともで厚生施設もまあまあならどこも同じなのだ。
 台湾系が嫌われるのは、同じ言葉を話し生活習慣もよく理解しているだけに厳しい管理ができている点である。確かに、とんでもないこともやるがそれは中国企業と同レベルのことをすることがあるという話でしかない。

 最後まで読んで、現在の日本で大学を卒業してこれから企業に就職する人たちは、沖に止まっている立派な船に乗るための艀(はしけ)に乗るようなものなのかと思ってしまった。
 立派な船に乗れるのはほんの一部で、残りはずーっと艀で水上生活か、艀ごと沈んでしまう運命のようで切なくなってしまう。用もなく立派な船に乗っている連中をさっさと放り出して、可能性のある若い人を一人でも多く乗せてやればいいのにと思う。

 それに、就活で列に並んで艀に乗っても、乗ってしまったら自分だけ外に行きたくでも海に飛び込まないと行けなくなってしまう わけだから、最初から「艀なんかに乗らない!」という選択も、もっと増えてもいいんじゃないか?